新宿・歌舞伎町――眠らない街の片隅で、ひとりの高校生が暴行を受け、スマホと現金を奪われた。
その犯行の舞台は、SNSでもたびたび話題になる「トー横」。
若者が集まり、孤独や生きづらさを抱えながらも、どこかで“つながり”を求める場所だ。
だが、その夜、つながりは“暴力”に変わった。
浮かび上がったのは、エンドロとイモケンピ――SNSで名を馳せていた、ふたりの容疑者の存在だった。
■ 「トー横」ってどんな場所?
事件の背景を語る上で、まず外せないのが「トー横」の存在だ。
正式には「東宝ビル横」と呼ばれる、歌舞伎町の一角。映画館の裏手にあるそのスペースは、数年前から若者の“たまり場”として注目を集めていた。
家に帰れない。学校に居場所がない。大人に頼れない。
そんな10代が夜ごと集まるこの場所には、希望と絶望が交差している。
助けを求める声もあれば、反社会的な行為やトラブルもつきまとう。
そうした“トー横カルチャー”の闇が、今回の事件に色濃く影を落としている。
■ 容疑者たちはおにゃんこぽんとして「SNSで有名な存在」だった
逮捕されたのは、いずれも住居不定・無職の3人の男たち。
- 矢口洸大郎(20)――SNS上では「エンドロ」と名乗る
- 森田永樹(29)――通称「イモケンピ」
- 当時18歳の少年(名前非公開)
彼らは、「恐喝グループ」として一部では知られていたおにゃんこぽんのグループのメンバーでした。
中でもエンドロとイモケンピは、X(旧Twitter)やTikTokなどで名前を見たことがある人もいるかもしれない。
カリスマ気取りの動画、虚勢を張る言動、そして無軌道な“強さ”のアピール。
だが、その裏には、想像以上に危うい現実が潜んでいた。
■ 被害者は高校生、心の支えは「きみまも」だった
ターゲットとなったのは、当時17歳の高校生の少年。
彼は2024年の夏ごろから、「きみまも@歌舞伎町」という東京都の若者支援窓口に通っていた。
「きみまも」は、家庭に居場所がない子や、トー横に出入りする若者の“逃げ場”をつくる活動をしている。
職員は、少年の変化にすぐ気づいたという。
「顔に傷がある」「様子が変だ」――通報のきっかけは、職員のそんな気づきだった。
■ 犯行の一部始終――暴力、恐怖、そして閉じ込め
事件が起きたのは、2024年11月19日の夜。場所は歌舞伎町の駐車場。
少年は、容疑者たちに囲まれ、こうして凶行が始まった。
- 顔を数回殴られ、現金2,000円を奪われる
- さらにレンタカーに閉じ込められ、再び暴行
- スマートフォン(時価13万円)を奪われる
監禁に近い状況の中で繰り返される暴力。
少年はその数日前にも、矢口容疑者から足を蹴られるなどの暴行を受けていたと証言している。
まさに、エスカレートしていたのだ。
■ 容疑者たちは「否認」、だが関係性は深い?
警察による取り調べに対し、3人とも容疑を否認している。
「やっていない」「関係ない」と口をそろえるが、被害者と容疑者の間には、日常的な接触があった可能性が高い。
矢口と森田は、トー横で少年たちの“兄貴分”的存在だったのか?
それとも、脅しと暴力で支配する加害者だったのか?
一部では、彼らが“支配的な人間関係”を築いていたという証言もある。
■ これは氷山の一角かもしれない
今回の事件は、あくまで氷山の一角だ。
トー横という場所には、「助けが届かない」若者が少なくない。
SNSでの影響力、路上でのカースト、グループ内での力関係。
そうした歪んだ構造の中で、暴力が“普通”になっていく。
行政の支援も届き始めてはいるが、加害者も被害者も紙一重な現実がそこにはある。
■ 最後に:この事件が問うもの
この事件が私たちに突きつけるのは、「見過ごされてきた痛み」だ。
少年の心の傷は、物理的な暴力以上に深いかもしれない。
そして、「居場所がない」「誰にも頼れない」――そんな若者が次に被害者になるか、加害者になるかは紙一重だ。
本当に問われるべきは、彼らを追い詰めた社会そのものなのかもしれない。
あなたの街にも、名前も知らない“少年”や“少女”がいるかもしれない。
その子たちが、ある夜突然ニュースの中に出てこないように。
一人ひとりの目と、支援の手が、今こそ必要とされている。
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