2025年5月5日午前2時50分、兵庫県豊岡市・城崎温泉街。その夜、静寂に包まれていた湯の町に突如として響いたサイレン。古き良き情緒を残す温泉地の一角で、信じがたい大火災が発生したのです。
今回の火災現場となったのは、江戸時代から続く老舗旅館「千年の湯 権左衛門」。数百年にわたり多くの旅人の疲れを癒し、数えきれない思い出を包み込んできたこの宿が、一夜にして炎に包まれました。
■ 緊迫の未明、「火が見える」通報から始まった地獄の数時間
火災は午前2時50分ごろ、豊岡市城崎町湯島282にある「千年の湯 権左衛門」から出火。「火が見える」と消防に通報が入り、すぐに消防車が駆けつけました。しかし、古い木造建築の構造、そして湿度の低さも重なり、炎はあっという間に広がったといいます。
宿泊していたおよそ43人の客はスタッフの指示で無事避難。奇跡的に全員無事でしたが、60代の男性従業員が煙を吸って搬送される事態に。意識はあり、命に別状はないとされています。
その後、火は約3時間半後にようやく鎮火。しかし、その時には「千年の湯 権左衛門」はほぼ全焼、周囲の土産物店など4棟を巻き込む大火災へと発展していました。
■ 観光地・城崎温泉の“顔”が消えた衝撃
「千年の湯 権左衛門」は、江戸時代に創業されたと言われる歴史深い旅館。館内は和の趣を極め、全23室が畳敷きの静謐な空間で、外湯巡りの拠点としても人気の高い宿です。南柳通りの風情と相まって、訪れるたびに“日本らしさ”を感じさせてくれる名旅館でした。
この旅館は、年間を通して観光客で賑わいを見せ、とりわけ春〜夏にかけてはカニや会席料理を楽しみに訪れる人で満室になることも珍しくありません。今回の火災によって失われたのは、単なる「建物」ではなく、世代を超えて愛されてきた“記憶のよりどころ”だったのです。
■ 火災原因は?いまも調査が続く
現在、消防と警察が火災の原因を調査中。電気系統の不具合なのか、厨房からの出火なのか、現段階では明らかになっていません。
城崎温泉のように木造建築が密集する地域では、一度火が出れば一気に被害が広がる恐れがあります。今回の火災は、温泉地の防火体制や安全管理について、あらためて見直す契機となりそうです。
■ 現場周辺も大きな被害、停電とパニック
関西電力によると、火災の影響で城崎町湯島にある約130軒が一時停電。夜明け前の温泉街は突然暗闇に包まれ、街には不安が広がりました。連休中だったこともあり、観光客の数も多く、混乱は相当なものであったと伝えられています。
現場の警戒区域には立ち入りが制限され、警察と消防が引き続き原因を調査中。現時点では出火元や原因は不明で、今後の解析が待たれます。
■ “非日常”に包まれた旅が、“非常時”へと変わる瞬間
実際に現地で宿泊していた観光客の一人はこう語ります。
「夜中、急にスタッフの方の声で起こされて、パジャマのまま外へ逃げました。信じられなかった。さっきまで入っていたお風呂、のんびりしていた部屋が…燃えているなんて」
また別の宿のオーナーはこう漏らしました。
「あそこは、まちの誇りだったんです。まさか燃えてなくなるなんて…」
非日常を楽しむための旅が、一瞬で「非常時」に転じる——。それがいかに唐突で、無慈悲なものか。今回の火災は、その現実を突きつける出来事でした。
■ 観光業界への影響は?
城崎温泉は、兵庫県内でも屈指の観光名所。外湯めぐり、浴衣での街歩き、柳の風情ある景観など、日本全国からファンが訪れるエリアです。
しかし、こうした災害は観光業に深刻な影響を与えます。旅館を目的に訪れていた人、周辺商店とつながりのある業者など、地域経済の基盤を揺るがしかねない損失なのです。
今後、「千年の湯 権左衛門」の再建はあるのか、そして街全体の復旧にどれだけの時間がかかるのか——注目が集まります。
■ 復旧に向けた声も
地域住民からは「絶対にあの旅館はまた復活してほしい」「城崎の誇りを取り戻したい」という声が多く聞かれます。クラウドファンディングなど、今後支援の輪が広がる可能性もあるでしょう。
旅館の女将や関係者はコメントを控えていますが、地域の想いが後押しとなれば、再建の希望も見えてくるかもしれません。
【まとめ】
- 5月5日午前2時50分ごろ、「千年の湯 権左衛門」から出火
- 木造建築ゆえ火の回りが早く、旅館含む5棟が焼失
- 約43人の宿泊客は全員無事避難、60代従業員が軽傷
- 地域約130軒が一時停電する被害も
- 旅館は江戸時代創業の老舗。温泉街の“顔”の喪失に住民衝撃
- 再建・復興への地域の願いが今後のカギに
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