2025年6月20日。
梅雨空が続く日本列島に、ひときわ静かで、それでいて胸を打つニュースが流れた。
フィギュアスケート女子のトップに君臨し続けた坂本花織(25)が、来シーズン限りでの現役引退を表明したのである。
2026年2月に開かれるミラノ・コルティナ五輪を“最後の舞台”とすることを、本人の口から明かしたその瞬間。
ファンの間には驚きと、そして「ついにこの時が来たか…」という、静かな共感が広がった。
■「まだできるのに、なぜ?」──その問いへの答えは彼女の言葉に詰まっていた
6月20日、神戸に完成した通年型アイスリンク「シスメックス神戸アイスキャンパス」のオープニングセレモニー後のこと。
報道陣の前に現れた坂本花織は、いつものように自然体で、そして何より清々しい表情だった。
「自分の競技人生は1年を切っている感じです」
そのひとことは、想像していたよりずっと柔らかく、でも胸の奥にズンと響く重みがあった。
ジャンプの回転数でも、得点でも測れない“人生のピーク”を、彼女は自分の手で見極めたのだ。
■ “終わり”を決めるという、最高に強い選択
アスリートにとって、引退という言葉は決して軽いものではない。
誰もが「まだできる」「もう少しだけ」と思いたくなるものだ。実際、坂本花織ほどの実力があれば、あと数年は第一線で戦える可能性は十分にある。
だが、彼女は言い切った。
「4年後を目指すと29歳。不可能かなと考えて。」
これは、弱さではない。むしろ、ものすごく強い選択だ。
年齢、体力、精神力、モチベーション──すべてを天秤にかけて、それでも「やり切るなら今」と決断すること。その潔さに、ファンも報道陣も、言葉を失った。
■ 坂本花織という存在の「リアルな強さ」
彼女は、決して“天才”タイプのスケーターではなかった。
爆発的な才能ではなく、努力と積み重ねで結果を出してきた選手。
練習量の多さ、根性、負けず嫌い――すべてがリアルで、だからこそ、多くのファンの心を掴んだ。
・平昌五輪:6位
・北京五輪:銅メダル
・世界選手権:2022年から3連覇
ここまでの成績を残してきたのは、並大抵の精神力ではない。
それでも「自分の限界はここまでかもしれない」と見極め、潔く線を引く姿勢は、まさに坂本花織らしいと言える。
「中途半端に2、3年とかやるより、ここで区切りにした方がいい」
なんて潔くて、なんて格好いいんだろう。
■ 最後の五輪に懸ける「願い」
坂本花織は、ただ引退するのではない。
彼女は「最高の舞台で、自分のキャリアを締めくくる」という挑戦に挑もうとしている。
その舞台とは、2026年2月のミラノ・コルティナ五輪。
「自分が出場できたら、団体も個人も銀以上が目標です」
金メダルではなく「銀以上」とリアルな目標を掲げるところに、坂本の現実的で冷静な一面が表れている。
無理な理想を語らず、今の自分のベストを知り尽くしている。
それでも“メダル以上”というハードルを自分に課す姿に、坂本花織のプライドと責任感が垣間見える。
■ 引退後は「教える立場」へ──リンクの未来をつなぐ人に
競技人生に終止符を打ったその先には、新しい夢が待っている。
それが「フィギュアスケートのインストラクター」、つまりコーチとしての道だ。
「神戸から羽ばたく選手をもっと出したい。
自分が注目されることで、環境やリンクに目を向けてもらえたら」
育った場所への恩返し。そして、未来への種まき。
自分の結果を「自分だけのもの」にせず、次の世代に受け渡そうとするその姿勢に、彼女の人柄がにじむ。
坂本花織の挑戦は、引退後も続いていく。
■ “最後のシーズン”は、誰よりも美しく、誰よりも熱く
いよいよ始まる、坂本花織のラストシーズン。
その一歩一歩が、きっとファンにとって“奇跡のような時間”になる。
技術、表現、感情、責任──
すべてをのせた坂本花織の最後の滑りは、彼女のキャリアの集大成となるだろう。
引退とは、終わりではなく「一番輝く瞬間を、自分の意志で決めること」。
坂本花織のこの決断が、多くのアスリートや若い選手たちに新しい指針を与えるかもしれない。
■ 終わりに──「坂本花織の物語」は、まだ終わらない
ラストシーズン。
その言葉に寂しさを感じる人も多いかもしれない。
でも、彼女の人生の“物語”は、これからも続いていく。
スケーターとして。
指導者として。
そして、ひとりの“坂本花織”として。
彼女がリンクで魅せる最後の一年に、心からの拍手を。
その背中に、「ありがとう」と言える日まで、目を離さずに見届けたい。
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