1954年、日本を代表する特撮映画『ゴジラ』が公開され、日本映画の歴史に不滅の爪痕を残しました。白黒の荒々しい映像と、ゴジラが放つ咆哮は、戦後の不安と恐怖を象徴する一大コンテンツとなりました。
そんな不朽の名作が、今になって「カラーで蘇った」と聞けば、往年のファンなら誰しもが驚き、少し心が躍るかもしれません。
しかし──その復活には、重大な“ルール違反”がありました。
■66歳のアルバイトが仕掛けた“ひとり違法ビジネス”
2025年6月17日、大阪府警が発表した内容に全国が驚きました。著作権法違反の疑いで逮捕されたのは、大阪府豊中市新千里南町に住む宮本一平容疑者(66)。職業はアルバイト。特別な技術者でもなければ映像関係者でもない、言わば「普通の高齢者」です。
そんな宮本容疑者が、自宅でたった一人で行っていたのは、**「白黒映画のAIカラー化&DVD販売」**という異例の海賊版ビジネス。
しかも、対象となったのはあの『ゴジラ』。よりによって映画界の象徴的作品を、無許可で加工し、販売していたというのです。
■生成AIとフリマアプリを駆使した“独自の手口”
宮本容疑者の手口はこうです。
彼はまず、1954年版の白黒『ゴジラ』を映像変換ソフトを使ってカラー化。そこに画像生成AIを組み合わせ、「現代風にリアルな色合いで再構成」したとうたっていました。つまり、ただの色付けではなく、“AIで蘇らせた”という体裁を取っていたのです。
完成した映像はDVDに焼かれ、フリマアプリやオンラインマーケットを通じて販売。価格は1枚あたりおよそ3,000円。中には高額な特装版として1枚3万円で出品されていたケースもあったと言われています。
そして、約1年間で売り上げた数はなんと約500件。全国39の都道府県に発送され、合計売上はおよそ170万円に上ったとのこと。
自宅の一室、パソコン一台で行われた“地下リマスター工房”のような作業。もはや趣味の域を超えた“フルスケールの違法ビジネス”だったわけです。
■「犯罪になるとわかっていた」──男が語った“動機”
逮捕後、警察の取り調べに対し、宮本容疑者は次のように供述したといいます。
「犯罪になるとわかっていた。けど、1人でやっていて誰かに迷惑をかけている実感がなかった」
淡々とした供述の裏には、社会との接点を持たずに過ごしてきた孤独な生活があったのかもしれません。
66歳という年齢。仕事はアルバイト。おそらく年金だけでは足りない生活の中で、ネットに転がる「副業アイデア」の一つとして「カラー化AI×フリマ販売」に目をつけた可能性も。
技術的には誰でも手に入るツールだけで実現可能なスキーム。その“手軽さ”が、違法性への感覚を鈍らせていったのかもしれません。
■業界団体が動いた!発覚のきっかけは通報
この違法行為が世に知られることとなったのは、2025年1月、ある業界団体の職員がフリマアプリ上で“見覚えのある映像作品”のカラー版が出品されているのを発見したのがきっかけでした。
その団体は「一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)」。日本のコンテンツ産業の保護を目的とする組織です。
「まさか、あのゴジラが?」「こんな商品、公式で出ていないはず…」という疑問から調査を開始。警察と連携し、販売元の特定に成功。そこから宮本容疑者の逮捕へと繋がったのです。
■容疑者の素顔──プロフィールと未解明の“家族事情”
現在までに判明している宮本容疑者のプロフィールをまとめてみましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
氏名 | 宮本 一平(みやもと・いっぺい) |
年齢 | 66歳(2025年現在) |
職業 | アルバイト(職種不明) |
住所 | 大阪府豊中市新千里南町(番地非公表) |
家族構成 | 不明(報道・供述ともに情報なし) |
SNSアカウント | 特定されていない(同姓同名の別人アカウントは多数存在) |
注目すべきは「家族構成の不明さ」。逮捕後の報道においても、家族に関する情報は一切触れられておらず、供述にも登場していません。高齢独居者である可能性もありますが、今後の報道で明らかになるかもしれません。
■「技術の民主化」と「倫理の崩壊」は紙一重
今回の事件は、技術そのものが悪なのではなく、その使い方と“意識”が問われる時代であることを象徴しています。
AIや動画変換技術、さらにはEC・フリマサイトの普及によって、誰もがクリエイターのように振る舞える今。そこに法の知識が伴っていなければ、たった一人でも、簡単に“犯罪者”になり得るのです。
「AIで蘇った名作」は夢があります。けれど、それはあくまで正規の手順を踏んだ上で初めて成り立つもの。自分のため、観客のため、そして何よりオリジナルを創った人々への敬意がなければ、その行為は“冒涜”にすらなり得ます。
■今後の展開は?再発防止への動きも
今回の逮捕によって、今後フリマサイトやEC業者に対しても「出品監視の強化」や「AI加工作品のガイドライン明確化」が求められていく可能性があります。
また、一般ユーザーに対しても「AI生成=自由利用ではない」という意識改革が進むことを、コンテンツ業界は切に望んでいるはずです。
■まとめ:たった一人の行動が、名作の名誉を傷つけた
宮本一平容疑者が犯した行為は、ほんの少しの「好奇心」と「金銭欲」から始まったのかもしれません。けれどその結果、守られるべき文化資産を“無断で手直し”し、“金儲けの手段”に使ってしまったのです。
令和の今、「個人の力」はかつてないほど強くなっています。その分、「個人の責任」も、かつてないほど重くなっているのかもしれません。
私たち一人ひとりが、その意味を考える時が来ているのではないでしょうか。
コメント