またしても、高齢者を狙った悪質な詐欺事件が発覚しました。舞台は関東を中心に広がる、都市部の民泊施設。そして仕掛け人は、わずか20〜30代の若者たち。その手口は巧妙で冷酷、しかも移動型で追跡困難。いったい彼らは何者なのか——。
息子のフリをして「会社の金をなくした」——巧妙なウソが奪った110万円
2025年4月、都内に暮らす80代の女性に一本の電話がかかってきました。受話器の向こうで「息子」を名乗る男は、こう言いました。
「会社の金をなくしてしまった。今すぐ110万円必要なんだ…」
愛する家族の一大事。混乱する高齢女性は、半信半疑ながらも必死に現金を用意し、指示された方法で渡してしまった——これが、まさしく“特殊詐欺”のシナリオでした。
犯人は「かけ子」グループ 若き3人の容疑者を逮捕
警視庁により詐欺の疑いで逮捕されたのは、以下の3名:
- 石島 魁人(いしじま・かいと) 25歳
- 青木 勇太(あおき・ゆうた) 28歳
- 山本 裕也(やまもと・ゆうや) 31歳
いずれも職業不詳・住所不定。若者ながらも「かけ子」として詐欺電話を担当していたと見られています。
逮捕時、石島容疑者と青木容疑者は千葉県内の民泊施設に潜伏しており、警察は現場からスマートフォン15台以上を押収。これは電話詐欺に使われた「道具」の一部と見られています。
「ハコ」と呼ばれる民泊アジト——追跡逃れの移動戦略
注目すべきは、彼らの“アジト”の使い方。グループは東京・千葉をはじめとする7都府県・14か所の民泊施設を点々と移動しながら犯行を重ねていたとされています。
1カ所の滞在期間は約1週間。“ハコ”と呼ばれるこのアジトを次々に乗り換えることで、捜査の目を巧みにすり抜けていたのです。
偽装された国際電話番号——巧妙なテクノロジーの罠
さらに驚くのが、電話の発信元。被害者のスマートフォンにはアメリカやカナダの国番号が表示されていたという事実。これはいわゆる「発信元偽装」と呼ばれる手口で、IP電話や海外サーバーを利用して実際の発信元を隠すことで、詐欺の発覚を遅らせていた可能性が高いとされています。
素顔は謎に包まれたまま——家族やSNSの情報は?
では、彼らの素性は?家族構成や出身地、SNSの投稿などから何か手がかりはないのか——。
残念ながら、現在のところ容疑者3人のプライベート情報は一切公開されていません。これは捜査中の情報保護、また報道機関の倫理的配慮によるもので、SNSアカウントの特定や家族の存在も報じられていないのが現状です。
しかし、住所不定という背景からは、もともと社会的に不安定な立場にあった可能性も否めません。経済的に追い詰められた若者が、闇バイトや詐欺グループに引き込まれていく構図が透けて見えるようです。
取材後記:誰が「加害者」を作ったのか?
110万円という大金を失った被害者女性の心の傷は、金額以上に深いものとなったことでしょう。一方、詐欺に手を染めた若者たちは、もしかすると一度も顔を合わせたことのない“上層”の指示で動いていただけかもしれません。
この事件が私たちに突きつけるのは、「加害者」と「被害者」を分ける紙一重の現実。そして、テクノロジーを武器にした新たな犯罪の形です。
警視庁は、詐欺グループの背後関係や資金の流れを含め、事件の全容解明に向けて捜査を続けています。今後の進展からも、目が離せません。
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