「金、払えって言ってんだろ。どこの店だと思ってんだ?」
旭川の歓楽街に響いたその言葉が、ただの酔っ払いの戯言ではなかったことに、誰もがすぐに気づいた。
店内に漂う緊張感。空気が一変した瞬間だった。
2025年6月5日未明──北海道旭川市の歓楽街「3・6街(さんろくがい)」で、一軒のバーが静かに営業を終えようとしていたそのとき、事件は起こった。
◆ 深夜3時台のバーに現れた“異質な客”がすべての始まりだった
場所は旭川市3条通6丁目。いわゆる「さんろく街」は地元でも有名な飲み屋街で、夜な夜なネオンが灯り、多くの人が行き交うエリアだ。
そんな街の一角にあるバーで、井上亮平容疑者(46)は午前3時55分ごろ、ふらりと店に姿を現した。
ただの客なら話はここで終わる。しかし、彼の目的は酒でも会話でもなかった──
彼が持ち込んだのは“恐喝”という名の暴力だった。
井上容疑者は、店で働く40代の男性スタッフに対し、「みかじめ料を払え」と迫る。言葉遣いこそ淡々としていたが、その態度は明らかに威圧的だった。
◆ 「払わない」その一言が引き金に──暴力のスイッチが入った瞬間
バーの店員は毅然と断った。
「当店はそういう金は払っていません。お引き取りを」
──今考えれば、この一言が命取りになってもおかしくなかった。
怒りをあらわにした井上容疑者は、突然、店員の顔を平手で殴打。
時間は午前4時を回っていた。酔客の笑い声も遠のいた頃、人気の少ない店内で行われた暴行。
その後も彼は、しつこく、何度も何度も金を要求し続けた。
暴行はエスカレートしなかったものの、店内は完全に支配された状態だったという。
◆ 事件の発覚──“ヤクザから暴力を受けた”通報一本で動いた警察
店員に大きなケガはなかった。それでも心のダメージは深く、彼はすぐに上司へ連絡。
その日のうちに「ヤクザから暴力を受けた」「みかじめ料を要求された」と通報が入り、警察が動き出す。
道警はただちに裏付け捜査を開始。複数の証言、防犯カメラの映像、関係者の証言などから証拠を積み上げ、6月7日、井上亮平容疑者を恐喝未遂の疑いで逮捕した。
◆ 井上亮平とは何者か?──暴力団構成員の「素顔」とその生活圏
井上容疑者は、**六代目山口組傘下の「二代目旭導会」**の構成員。
この組織は北海道旭川市に拠点を置き、地元では“表と裏”両方の顔を持つ団体として知られている。
彼の住所は旭川市5条通6丁目。歓楽街にも徒歩圏内のエリアに住んでいた。
市内の中でも飲食店や風俗系店舗が密集する場所にほど近く、「地元に根を張るタイプのヤクザ」という印象を持たれていたようだ。
井上容疑者の私生活は謎に包まれている。
近隣住民の話では、「怖そうな人だけど、日中は普通に近所を歩いていた」との声もある。家庭を持っていたかは不明だが、報道では家族構成や生活の様子に関して一切明かされていない。
◆ SNSの痕跡は一切ナシ──“沈黙する暴力団員”
現代では犯罪者もSNSで足がつくケースが増えているが、井上容疑者に関しては、X(旧Twitter)やInstagram、Facebookなどのアカウントは確認されていない。
裏社会の人間として、表立ったオンライン活動は避けていた可能性が高い。
また、暴力団系の構成員の間では「名前検索されても出ない」よう、偽名や別アカウントを使っている例も少なくない。
つまり、彼は“オンラインの世界では姿を消していた”存在だったのだ。
◆ 警察が追う“裏の顔”──組織的な関与と他の店舗への圧力は?
警察は現在、井上容疑者の余罪の有無や組織的関与についても捜査を進めている。
というのも、今回の事件は単独犯としては不自然な点が多い。
・なぜ、特定の店を狙ったのか?
・以前から「みかじめ料」の要求をしていたのではないか?
・暴力団の指示による“営業”だったのでは?
旭川の歓楽街は全国的に見ても“静かな顔”をした街だが、こうした事件が報道されるたびに、根深い“裏のネットワーク”が見え隠れする。
◆ まとめ──夜の街に潜む「静かな恐怖」
旭川の「3・6街」と言えば、観光客も地元民も賑わうエリアで、ラーメンの締めからバーでの一杯まで楽しめる。
だが、その裏で、こうした“金の搾取”や“暴力の強要”が行われていた可能性がある。
今回の事件は、「暴力団なんてもう昔の話」と思っている人々に冷や水を浴びせる結果となった。
しかも、これは氷山の一角かもしれない──。
今後、警察の捜査がどこまで明らかにするか。
井上容疑者が何を語り、どんな組織的な構造が暴かれるのか──
私たちはまだ、“事件の入口”に立ったばかりかもしれない。
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