深夜3時半、東京・北区の合宿所から、4人の若きアスリートが涙を堪えながらキャリーバッグを引いて外へ出た。
彼女たちはただの学生ではない。ロサンゼルス五輪を目指す、**新体操日本代表「フェアリージャパンPOLA」**の現役選手たち。いわば、将来のメダル候補――その中枢メンバーが、練習をボイコットし、姿を消した。
この異常事態が表沙汰になることはなかった。マスコミも黙殺、協会は沈黙。そして、闇の中に隠され続けてきた。
だが今、その「闇」の正体が、少しずつ明らかになりつつある。
■「ここにいるのが、苦しい」──選手が放ったSOS
2024年2月26日。午前6時。始発のバスに乗り込み、合宿所を去った4人の選手たちは、赤羽駅近くの飲食店からLINEで苦悩のメッセージを送っていた。
「ここ(JISS)にいるのが、もう本当に苦しいんです」
涙ながらに訴えたその理由は、ただの“疲れ”ではなかった。
そこにあったのは、2つの深刻なハラスメント問題。
- 一つは、当時の強化本部長・村田由香里氏による厳しすぎる指導。
- もう一つが、**男性トレーナーA氏による“身体接触を含むセクハラ行為”**だった。
この中で、より闇が深く、いまだに“名前すら明かされない”のが、A氏の存在である。
■ A氏による“問題行為”とは?
協会が選手からヒアリングを行った際、選手たちはこう訴えた。
- 肩のテーピング時、何の断りもなくハーフトップの肩紐を外し、胸に触れられた
- 腰のマッサージ時、横からではなく選手の上にまたがる形で行い、股間と臀部が接触
- ケア中の説明が不十分で、「これが本当に必要な施術なのか分からない」と感じたことも多い
しかも、こうした行為は1回きりではなかった。複数の選手が、長期的に同様の不快感を訴えている。
さらにあるコーチは証言する。
「選手たちの間で、“A氏のケアは嫌だ”という声がずっとあった。でも言えないんですよ。“告げ口”すれば、自分が練習から外されるかもしれないって」
つまり、これは単なる誤解ではなく、“構造的な抑圧”の中で続いていた問題なのだ。
■ それでも「事実無根」と否定するA氏
一方、この報道を受けてA氏は短くこう回答している。
「事実無根であります」
驚くほど簡潔な否定だ。
だが、A氏の言葉を裏付ける第三者の調査はいまだに実施されていない。協会が行ったのは、内部関係者による聞き取りのみ。
疑惑の核心に迫るどころか、問題の本質をぼやかすような報告だけが残された。
■ A氏は誰? 正体に迫るヒントとは
では、いったい「A氏」とは誰なのか?
名前こそ伏せられているが、報道内容と関係者証言から、以下のような特徴が浮かび上がる。
- JISS合宿に定期的に帯同している男性トレーナー
- 女性選手の身体ケアを日常的に担当
- 日本体操協会から信頼を受けていた“準専属”の立場
- 2023年以前から帯同歴がある人物
- 選手全員が「もう関わってほしくない」と明言している
これは単なる外部の派遣トレーナーではない。
むしろ、**協会の“顔の見える内部協力者”**に近い存在であり、長年にわたって代表チームに深く関わってきた人物である可能性が高い。
■ なぜ、協会は名前を隠すのか?
ここで多くの人が疑問に思うだろう。
「なぜ、これだけ具体的な証言が出ているのに、A氏の名前は伏せられたままなのか?」
そこにあるのは、“選手の声を聞いたふり”をして、事態の拡大を避けようとする組織的隠蔽体質だ。
協会は「選手の意向により処分は求めない」と説明するが、その“意向”を聞き取ったのは、以下の2人。
- 水鳥寿思:男子体操の強化本部長で、協会の幹部
- 橋爪みすず:新体操副会長、A氏の関与当時の責任者
いずれも利害関係者であり、真に中立とは言い難い。心理的安全性のない場で、本音を引き出すことなどできるのだろうか?
弁護士の佐藤倫子氏もこう警鐘を鳴らす。
「こうした調査は、利害関係のない第三者に委ねるべきです。でなければ、被害者は“また傷つくかもしれない”という不安から、声を抑えてしまう」
■ 「セクハラの被害」は今も、言えない空気の中にある
今回のケースで最も深刻なのは、「選手たちが声を上げたにもかかわらず、誰も守ってくれなかった」という事実だ。
そしてそれは、ただの過去の出来事ではない。
- A氏の処分は明らかにされていない
- 協会の第三者調査も実施されていない
- ハラスメント再発防止の具体策も公表されていない
つまり、今この瞬間も、“同じ構造”は温存されたままなのだ。
■ 「声を上げた選手」が守られる社会へ
若き選手たちは、たとえ五輪の夢を失っても、「もうこれ以上我慢できない」と訴えた。
この行動は、単なる“ボイコット”ではない。
これは沈黙の壁を壊すための、命がけの一歩だった。
そして私たちが今問うべきなのは、
「加害者の名前を伏せたまま、“うやむや”にしていいのか?」
ということだ。
協会は、組織の名誉より、選手の未来を優先すべきである。
【まとめ】名前を明かすべきは「報復」ではなく「再発防止」のため
誰もが知るべきことは一つ。
“A氏”が誰なのかを明かすことは、個人攻撃ではない。再発を防ぐために必要な一歩だ。
そして、被害を受けた選手が、もう二度と「声を上げてよかった」と後悔しない世界を築くこと。
沈黙の美徳など、もういらない。
私たちが守るべきは、「未来ある若者の声」である。
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