「アイドル」と聞いて、どんな姿を思い浮かべるだろう。
キラキラ笑顔でピースサイン? 10代の制服姿? それとも、バレンタインチョコをもらいそうな清純派?
だが、そんな固定観念をすべてぶち壊す“異色すぎるアイドル”がいる。
その名も――フジコちゃん、44歳。孫持ち。現役アイドル。
しかも担当ポジションは「きゅんきゅん系」。
もう、どこからツッコめばいいかわからないほどインパクトが強い。だけど、彼女の人生を辿ると、それは「ただの話題性」なんかじゃなく、リアルに壮絶で、正直、涙が出そうになるほど熱い。
■ “放課後マック”がすべての始まりだった
フジコちゃんは1981年生まれ。今では広島のご当地アイドルグループ「悪女時代」で活動中だが、その人生のスタートは驚くほど厳格な家庭環境だった。
小2で広島に引っ越し、両親のしつけは筋金入り。
平日はピアノ・水泳など習いごとでびっしり埋まり、寄り道は一切禁止。土日も友達と遊ぶのは禁止。流行りの音楽もNG、テレビは父親と一緒に『日曜討論』。
そんな家庭で、フジコちゃんが唯一こっそり好きだったのがSMAP。これは許してあげてほしい。
だが、ある日、その日常が大きく動く。
それは、「友達と放課後にマクドナルドへ行った」こと。たったそれだけのことで、なんと岡山県の祖父母の家の近くの高校へ強制転校させられた。
まさに、「マックが人生を変えた」。
■ ヤンキーとの出会い、高2で妊娠・結婚
岡山に転校して、生活は一変。なぜか広島よりも行動が自由になり、コンビニへ行けるようになった。
そして、運命の出会いが訪れる。
そこで出会ったのが、“ちょっと悪そうな”ヤンキー風の男性。なぜだか彼と惹かれ合い、自然な流れで付き合い、なんと高校2年で妊娠・結婚。人生が一気に加速した。
このとき、彼女はまだ10代半ば。
今なら「信じられない」と思う人も多いだろうが、それが彼女にとっての現実だった。
■ 19歳で離婚、そこからシングルマザーとしての戦い
結婚生活は長くは続かず、19歳で離婚。
そこからは、広島の実家に戻り、2人の子ども(現在は27歳の娘と26歳の息子)を育てることに。もちろん、経済的な余裕などあるはずもなく、アルバイトを掛け持ちする日々が始まった。
働いたのは書店、ラーメン屋、パチンコ店、そして通信会社の受付など。
子どもがやんちゃで学校からの呼び出しも多く、「すぐに迎えに行ける場所でしか働けなかった」と振り返る。
誰も助けてくれない中、ひとりで、子ども2人を育てあげた。
■ 「ダンスがしたい」からのアイドルデビュー
年月が流れ、子どもたちは成人。
あるとき、「私もずっとダンスがしたかった」と思い立ち、偶然イベントで共演したご当地アイドル「悪女時代」に強く惹かれる。
キラキラ輝くステージを見て、「私もあの中に入りたい」と初めて感じた夢。
そこから総取締役に声をかけられ、オーディションに合格。
気づけば、44歳にして“現役アイドル”に。
しかも、加入直後に娘が出産。自分は孫持ちのアイドル、グループ初の“ばあばアイドル”という肩書きが加わることに。
■ 家族の反応は?
意外にも、家族はあっさりしていた。
子どもたちは「へえ、そうなんだ」くらいで、ライブにも来てはいない。
でも、孫(現在3歳)は妹と一緒にライブを観に来てくれたらしい。微笑ましい光景が浮かぶ。
両親は「もう何も言わない」「あきらめてるのかも(笑)」と笑うが、実際にはライブにも足を運んでくれている。
■ フジコちゃんの魅力は“年齢”じゃない。人生そのものがステージ
「44歳でアイドルなんて…」と思う人もいるかもしれない。
だが、フジコちゃんは胸を張って言う。
「若い子にはない、人生経験がある。すべてを包み込める自信がある」
その言葉には、誰にも真似できない説得力がある。
1日2ステージがキツくてぐったりすることもあるけれど、その体力すらも“今の年齢でしか出せない色気”に変えているのだ。
■ 夢は“紅白出場”、そして「倒れる瞬間までアイドルでいたい」
次の目標は?と聞かれると、フジコちゃんは迷わずこう答える。
「紅白に出たい。メンバー全員で夢を見ていたい」
そして、自分の理想のラストステージについてはこんなふうに話す。
「歌い終わって、ターンした瞬間にステージで倒れるくらいが理想ですね(笑)」
本気なのだ。その笑顔の裏には、過酷な現実を乗り越えてきた強さがある。
■ 最後に——“かわいいおばちゃん”を目指して
「若い頃に何も知らなかったから、無知で損したことも多いんです」と語るフジコちゃん。
これからは「少しだけ賢く、かわいいおばちゃんになりたい」と笑う。
そして、写真集も「今のうちに撮っておきたい」と冗談めかして言うその姿に、人生のどの瞬間でも人は輝けるんだと、心から思わされる。
■ 編集後記:彼女の物語は、まだ途中だ
高校中退、10代での妊娠・結婚・離婚、シングルマザー、孫のいる44歳のアイドル。
そんなラベルを並べても、彼女の本質には追いつけない。
夢に手を伸ばす勇気、諦めなかった時間、そして「やりたいことをやる」強さこそが、彼女の真の輝きだ。
ステージの上で「きゅんきゅん担当」として笑う彼女は、誰よりもリアルで、誰よりもカッコいい。
この物語は、まだ終わらない。
コメント