「信じていたのに——」
歯科医を信頼してインプラント治療を受けたはずの患者が、まさかの“詐欺被害”に遭っていた。しかもその被害総額は1億円以上。逮捕されたのは、千葉市で「高橋デンタルオフィス」を経営していた高橋仁一（たかはし・まさかず）容疑者（58）。一体、彼は何者なのか？そして、どんな手口で人々を騙していたのか？
■「メーカーが返金してくれる」はずが…200万円を追加でだまし取られた女性の証言
詐欺の手口は巧妙だった。
2021年、千葉県内に住む50代の女性が、インプラント治療のために200万円を支払った直後、高橋容疑者から「あなたの症例を学会で発表する代わりに、メーカーから治療費が全額返ってくる」という“耳障りのいい提案”を持ちかけられる。
だが、その返金を得るためには「協力金」としてさらに200万円が必要だという。
当初、不信感を抱いたというこの女性。しかし、高橋容疑者はテレビにも出演していた“名医”。「信じていた医師に言われたなら…すぐ戻るお金なら…」と、結局支払ってしまったのだ。
しかし、待てど暮らせど返金は来ない。治療も進まず、「機材の都合」などと引き延ばされ、2年経っても治療は完了しなかった。怒りより先に、裏切られたショックが襲ってきたという。
「医師という絶対的な立場を悪用した、極めて悪質な詐欺です」
と彼女は悔しさを滲ませながら語った。
■被害者は10人以上、被害総額は1億円超！破産・閉鎖…“名医”の転落劇
高橋容疑者が経営していた「高橋デンタルオフィス」は、千葉市中央区のオフィス街にあった。開業は2002年。当初からインプラントや審美歯科を中心に手広く展開し、患者の信頼も厚かった。
だが、実態は“自転車操業”。経営は綱渡りで、資金繰りが厳しい状態が長年続いていたという。
そして2023年、診療は事実上ストップ。2024年6月には破産を申請し、負債総額は約17〜19億円ともいわれる。
診療所は強制執行によって閉鎖。掲げられていた看板は今や取り外され、シャッターが閉じられたままだ。
警察には、今回の女性以外にも10人以上の被害者から被害届や相談が相次いでおり、被害総額は1億円以上にのぼるとみられている。
■高橋仁一容疑者とは何者なのか？
では、この男はいったいどんな人物だったのか？
調べによると、高橋仁一容疑者は東京歯科技工専門学校を1988年に卒業。その後、1996年に東京歯科大学を卒業し、都内のクリニック勤務を経て、2002年に「高橋デンタルオフィス」を開業。歯科技工士と歯科医の両方の資格を持ち、治療の質の高さをアピールしていた。
所属学会は多く、「日本顎咬合学会認定医」や「包括歯科医療研究会」などにも名前を連ねていた。ウェブサイトでは講演会の実績や、患者との「信頼関係」を強調するような文章も掲載されていたが、現在はすでに削除されている。
まさに“名医”の顔をかぶった詐欺師。
被害者の証言からは「最初はとても穏やかで丁寧な人だった」「話術がうまく、疑いようがなかった」という言葉が目立つ。
■家族・自宅・SNSは？
気になる家族構成や私生活については、いまだ多くが謎のままだ。
- 配偶者や子どもの有無は不明。報道などでも触れられておらず、家族が事件に関与している様子も見られない。
- 自宅住所も公開されていないが、診療所が千葉市中央区のビル内にあったことから、その近辺に住んでいた可能性がある。
- SNSアカウントは本人のものと断定できるものは確認されていない。ただし、被害者らによって立ち上げられた「被害者の会」が、X（旧Twitter）やnoteなどで情報発信を行っており、被害の拡大を防ぐための活動が続けられている。
■今後の捜査と被害の拡大
現在、警察は高橋容疑者が同様の手口で多数の患者から金銭をだまし取っていた可能性があるとして、捜査を拡大中。インプラント治療が適切に行われなかったという苦情や、個人的に貸したお金が返ってこないという声も寄せられているという。
さらに、患者側からは「本来医師としてあるまじき行為」「人生を狂わされた」との声も。インプラント治療は決して安くない。数百万円の治療費は、老後資金や子どもの教育資金を削って捻出している人も多いのだ。
◆編集後記：信頼を裏切った代償はあまりに大きい
医療という「最後の砦」に裏切られるという体験は、金額以上の心のダメージをもたらす。
白衣を着た“信用の象徴”が、一歩間違えば“加害者”にもなる。今回の事件は、医療とお金の関係に警鐘を鳴らす象徴的なケースだ。
高橋容疑者には、法の下での厳正な裁きを望みたい。そして、同様の被害者がこれ以上出ないよう、医療業界全体の信頼回復が急務である。
コメント